主の民イスラエル一族の消滅危機
- 2020.09.14
- 三つのテーマで読む創世記(下)
創世記34章
「私たちは互いに縁(婚姻関係)を結びましょう。あなたがたの娘を私たちのところにとつがせ、私たちの娘をあなたがたがめとってください。そうすれば、あなたがたは私たちとともに住み、この土地はあなたがたの前に開放されているのです。ここに住み、自由に行き来し、ここに土地を得てください。」(9、10)
ヤコブはエサウと和解したのち、ほんとうは即、かつて主に誓願を立てたベテル(31:3、13)に行き、先祖の国に帰るべきでした。しかし、シェケムに土地を買ってとどまったために、その地のヒビ人ハモルの子シェケムにヤコブの娘ディナを汚されるという事件が起こってしまいました。
ヒビ人シェケムはヤコブ側に、両一族が互いに婚姻関係を結び合い、一つになって同じ土地に住もうと提案しました。しかし、シェケムはヒビ人の同族に対しては、彼らと関係を結んで、ヤコブの家畜や財産を手に入れよう(23)と呼びかけます。これは、主の選びの民が異民族と縁を結び、同化吸収されそうになる最初の危機です。
しかし、ヤコブは族長でありながら、ハモルとシェケムとの話し合いにおいて、一族の長としてのリーダーシップを発揮しません。彼我の力から判断し、事を荒立てず穏便に収めようと考えたのか、自分からは発言しようとはしませんでした。それが、息子たちの暴走を許すことになります。彼らはシェケムに同意する条件として「割礼」を受けさせ、その傷が痛んでいる間に、シェケムの町を襲撃するという悪巧みを企てたのです。そしてシメオンとレビがその企みを実行し、すべての男子を殺して、全財産を略奪しました。
シェケムの凌辱行為は、確かに「許せないこと」(7)です。しかし、彼は父の家では最も敬われていた人物です(19)。ディナを妻とするためにヤコブ一族側の要求を呑み、決まりに従い誠実に償おうとしています(申22:29参照)。事後処理に問題はありません。
一方、シメオンとレビがしたことは、過剰な復讐行為であり、卑劣な騙し討ちであり、暴虐行為です。シェケム側は約束を守ったのに、ヤコブ側は破ったのです。しかも、主と契約を結んだしるしである「割礼」を、この悪巧みに利用しました。主に対する冒涜です。ヤコブが父として、子供たちに「契約の民」としての模範教育をしてこなかったからだと言えましょう。
しかしながら、結果としては、シェケム一族を滅ぼしたことで、ヤコブ一族は異民族に同化吸収されることなく、アブラハム契約と信仰の純粋性を守ることになりました。また、シェケム一族は、彼がイスラエルに対して犯した恥ずべき行為のゆえに、その企みとともに滅んでしまいました。「アブラハムの子孫を呪う者は呪われる」という契約通りなったのかもしれません。ただし、その呪いは主からではなく、人間がもたらしたことです。
ヤコブ一族は、とてもほめられたものではありません。信仰の不徹底と不正で、まさに「足を引きずって歩く」民です。それでも、ヤコブ一族はアブラハム契約によって祝福されています。主の計画は、彼らの不信仰、不誠実を越えて実行されます。それが祝福の契約なのです。
しかし、そのヤコブにも新たな悔い改めの時が来ます。
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