ステーション16 ポーランド(後半)
- 2020.09.30
- アブラハムの子供たち
教えるための情報
ユダヤ人居留区ではイディッシュ語が話されました。イディッシュ語は非常に豊かな言語で、今日も使われています。中世ドイツでできた言語であり、ドイツの方言、ヘブル語、アラム語が混ざったものです。しかし、迫害されて東へと移住するにつれ、イディッシュ語は変化し続け、スラヴ言語の要素が混ざりました。方言ができ、ユダヤ人は相手の方言でどこの地域出身かを簡単に知ることができました。第二次世界大戦が始まる頃には、世界のユダヤ人の3分の2がイディッシュ語を話すようになっていました。
シュトットとは、「町」という意味のイディッシュ語です。ポーランドやリトアニアの小さなユダヤ人共同体は、シュテットルと呼ばれました。シュテットルの規模は、数十家族から数百家族まで様々です。しかしその大部分は、基本的に同じ信仰に立ち、同じ社会構造、経済構造、文化を持つ小さな村でした。シュテットルのユダヤ人は、ほとんど例外なく極貧生活の人々で、地域の市場で行商人、靴職人、商人などをして何とか生計を立てていました。
当時の生活は困難の連続でしたが、シュテットルの生活は温かく、親密で、喜びに満ちたものでした。祭りや安息日は活気に満ち、家庭生活を心から尊びました。ラビは共同体で起きるできごとに対し絶対的な権威を持っており、シュテットルで最も大切にされたのは学びの場であるシナゴーグ、そして言うまでもなく家庭でした。苦労の多い生活でしたが、子供たちは宝とされ、教育が何よりも重んじられました。
ユダヤ教は子供教育を非常に重視し、ユダヤの宗教的遺産が損なわれることなく後の世代に受け継がれるよう、細心の注意を払っていました。共同体には、知識を伝えなければ共同体を維持できないという共通理解がありました。タルムードにはその強い意識を示す言葉が残されています。
- 学校に生徒がいなくなったら、世界はなくなってしまう。
- たとえ神殿の再建のためであっても、子供の教育を後回しにしてはならない。
- 学校に生徒のいない町は、破滅の憂き目に遭うだろう。
タルムードには、異教徒が集まり、どうやったらイスラエルの民を打ち負かせるか、哲学者に質問する話があります。哲学者はこう答えました。「シナゴーグや学校へ行ってみなさい。子供たちが大声で教えを暗唱しているのが聞こえたら、あなたがたには彼らを負かすことはできない」。
このように子供の教育には最大限の敬意が払われ、教師も非常に重んじられ、共同体から援助を受けていました。シュテットルのある親は、教師がトーラーの巻物を主の前で広げたときに、赤ん坊を祈りのショールに包んで教師に差し出したほどです。教師は生徒たちに厳しい姿勢で臨みましたが、心からの愛情を注ぎました。事実を教え情報を与えるだけでなく、知恵も授けました。教師の目標は、生徒の頭を良くすることだけでなく、生徒の人生を変革し、ユダヤ教の教えをますます慕うようにし、生ける神との関係をさらに深めることだったのです。
学びの進め方
このステーションのリーダーは、シュテットルの学校の教師役、アシスタントは教師補佐になります。
生徒たちに挨拶し、彼らの礼儀正しさをほめます(逆なら、注意します)。そして、「今日は、中世ポーランドの学校で使う言語であるイディッシュ語について話します」と切り出し、イディッシュ語の起源や、ポーランドのユダヤ人の歴史などについて説明します。
イディッシュ語のことわざのひとつを紹介し、生徒に暗記させてみます。
- 人が計画を立てると、神は笑われる。Ich tracht, Gott lacht.
- 人は120歳まで生きるべきだ。Zollst leven biz ah hoondred tzvantig yohr.
他に、こんなことわざもあります。
- プリムは一度しかなかったが、ハマンはたくさんいる。
(プリムのとき以外でも、ユダヤ人を滅ぼそうとする者はたくさんいる) - 真理が絶えることはありえないが、真理は時に人を労苦に満ちた人生へ導く。
- ユダヤ人であるのは大変なことだ。
- チョップ・レバーのことなら、みんなよく知っている。(チョップ・レバーとは、レバー料理の一種。イディッシュ料理において、メインではなく付け合わせとして出されることから、社会的に無視されることを表す)
シュテットルの学校の生徒は、何度も声に出して繰り返すことで学びました。授業が終わったら、「次の授業では暗唱できるように、家でトーラーを繰り返し朗読するように」と念を押します。タルムードには、トーラーを学んで、口に出して繰り返さない者は、種をまいて、刈り取らない農夫と同じだ、と書かれていると伝えます。
雰囲気づくり
部屋を貧しいシュテットルの学校の教室のような感じにします。部屋の中のものはできるだけ取り除き、セメントのブロックの上に板を置き、生徒が座るベンチにします。数冊の本をテーブルの上に置き、バケツの水とぞうきん、黒板とチョークを準備します。
衣装
リーダーとアシスタントは、暗い色合いのズボンと黒い靴、黒いジャケットと襟なしの白いシャツを身に着けます。服は新品に見えないものを選び、擦り切れていて古く見えるようにしましょう。
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