ステーション17 ホロコースト(中)

ステーション17 ホロコースト(中)

教えるための情報

ホロコーストの生存者ヘンリー・エルテルトは、ヒトラーが権力を掌握したとき、まだ幼い子供でしたが、当時のナチス支配下の恐怖を鮮明に記憶しています。彼は、ユダヤ人の子供たちに直接向けられた宣伝工作と迫害について、リアルに語りました。ベルリンの公立学校の教師たちは毎朝5分ずつ、ユダヤ人を糾弾する話をし、子供たちの心に反ユダヤ主義をすり込みました。だれもが短期間でその影響を受け、親しくしていたユダヤ人の生徒でさえも避け、無視し、ついには敵意をむき出しにし、憎しみを露わにしました。

5歳のAvram Rsenthal、弟で2歳のEmanuel。1944年2月、ダビデの星を付けて。リトアニアのコヴノにあるゲットーで生まれ、父、祖母とともにマイダネク収容所で亡くなる。

ホロコーストで殺された600万人のユダヤ人のうち、150万人は子供でした。ユダヤ人の子供を生かしておけば、いずれユダヤ人の大人になるので、子供たちを殺すことはナチスにとって特に重要だったのです。ユダヤ人を一掃して世界を良くするためには、絶対に子供を抹殺しなければなりません。アーリア人が非アーリア人と混血してしまうなら、最も優秀なアーリア人であるゲルマン人の純潔を妨げ、その卓越性を保てなくなります。ナチスは、法律、映画、演説、広告、本、歌、そしてゲームをも最大限に活用して、ユダヤ人憎悪をドイツ人の子供たちに植え付けたのです。

ドイツでは、ユダヤ人排斥の政策の多くが、子供たちに向けられました。その最初は、ドイツの学校に登録できるユダヤ人子弟の数を制限することでした。次いで、ユダヤ人の子供の施設や孤児院の閉鎖、ユースホステルの宿泊禁止、そして14歳以上のユダヤ人を強制労働の対象とすることを命じました。ユダヤ人の子供は教育の機会を奪われ、果ては自転車やペットの所有、公共交通機関の利用、公園のベンチに座ること、プール、トイレ、公園の飲み水を利用することさえも許されなくなりました。ユダヤ人の子供たちを阻害するこうした政策のために、非ユダヤ人の友人や隣人からの視線は、冷たくなっていきました。

ナチスは、ドイツ人の若者を洗脳するためにも、実にあらゆる力を注ぎました。ヒトラー支持の若者が歌う歌は、彼らを傲慢で好戦的にし、他者、特にユダヤ人への憎悪をかき立てました。アーリア人の子供がユダヤ人の子供に暴力を振るうことが奨励され、賞賛さえされました。ゲームの中では、ユダヤ人の子供は愚かで、人間ではなく、危険で、虐待し見下すべき、価値のない存在として描かれました。幼児にさえも、ユダヤ人を嫌うように仕向ける人形劇が用いられました。

子供向けの本も、ユダヤ人の子供たちを絶滅させるためのプロパガンダとして用いられました。『毒キノコ』という名の本は、ドイツ人の子供へのプレゼントとして非常に人気がありました。

「『さあフランク、考えてみなさい。世界の人々は、森に生えているキノコのようなもの。良いキノコがあるように、良い人々もいる。でも、毒を持つ、悪いキノコがあるように、悪い人々もいる。だから、毒キノコに気をつけるように、悪い人々には気をつけなければなりません。わかったかい?』『はい、母さん。気をつけます』とフランクは言いました。『毒キノコを食べてはいけないように、悪い人々と仲良くしてはいけません。もし仲良くすれば、死んでしまうかもしれない。……ところで、お前はこの悪い人々が誰か、つまり、人間の中で毒キノコは誰か、わかるかい?』と、お母さんは尋ねました。フランクは胸を張って答えます。『はい、母さん。知っています。それは、ユダヤ人です。先生が学校で、よくユダヤ人について教えてくれます』」。

『毒キノコ』の挿絵や言葉、そして、他の反ユダヤ主義的な児童書の一部を、続くページに載せています。

1936年、『デル・ストゥルメル』の編集長ユリウス・シュトライヒャーが、ドイツのニュルンベルク市に住む2000人の子供たちに向けて講演し、「悪魔とは誰のことか、わかりますか」と質問をしました。2000人の子供たちは口をそろえて答えました。「ユダヤ人!ユダヤ人!」

150万人のユダヤ人の子供たちが虐殺されている間、ドイツを始め、他の国々の子供たちも、ユダヤ人の死は良いことであると教えられ、神への捧げものであるとさえ教えられ続けました。残念なことに現在も、ユダヤ人憎悪と民族差別は継続されているだけでなく、激しくなっています。若い人々は、暴力、偏狭な考え、そして反ユダヤ主義に影響を受け続けています。私たちの文化が多様化する一方で、ネオ・ナチや白人至上主義者は増え、ユダヤ人や少数派民族への嫌がらせや迫害は広がっているのです。

クリスチャンの若者は、他者を憎んではならないと教えられてはいても、憎悪に対してどう立ち向かえばいいのか、その方法は与えられていません。しかし、子供たちにホロコーストの事実を教え、それを教会が傍観したことについて考えさせ、無慈悲、悪、正義の欠如という問題に取り組ませる必要があります。そうすれば、道徳的、社会的、知的に何が本当に正しいかを心に刻み、正義と平等のために行動を起こすきっかけになります。さらに、神の民がホロコーストという残虐行為に加担した歴史的事実を直視することで、ユダヤ人と教会との間に存在してきた1700年にもわたる敵意の壁を、打ち壊す信仰が養われると期待できます。

『毒キノコ』Der Giftpilzから。「十字架を見たら、ゴルゴダの丘でユダヤ人が行った恐ろしい殺人を思い起こしなさい」と書いてある。

『毒キノコ』Der Giftpilzから。「さあ子供たち、あめをあげるよ!でもその代わりに一緒に来るんだね」と書いてある。

『毒キノコ』Der Giftpilzから。「ユダヤ人は叫ぶ。『ドイツなんかどうでもいい。国が我々の都合のいいように動いてくれるのが大事だ』」。

学びの進め方

ホロコーストに関する学びの進め方を、2つ挙げます。どちらかを選んでください。

進め方1

教師たちの多くは、ホロコーストについてあまり知りません。また、このような難しい、微妙な話題を扱うことを、不安に思う人もいるでしょう。「進め方1」はそのような教師のためのものです。ワシントンのホロコースト記念博物館が作成した、「ダニエルのお話」という子供用の映像があります。ひとりの少年がホロコーストに関わる旅をし、自分の言葉で15分くらい語ります。子供だけでなく大人にも伝わる優れた教材で、ストレートに心に訴えてくる内容です。この映像には36ページにわたる教師用ガイドがついており、これを使ってどのような活動ができるか、様々な例が載っています。

映像と教師用ガイドは無料で、送料のみで注文できます。Hebrew Heritage Publicationにお電話いただくか、eメールでお知らせください。電話は、米国507-332-2623、あるいは952-898-3306です。メールアドレスは、shauer@hebrewheritage.netです。

進め方2

ホロコーストという人類史のおぞましいできごとを伝えるに当たって大切なのは、歴史的な背景を繰り返し語ることです。若いクリスチャンなら、ヨーロッパの反ユダヤ主義や様々な宗教的・精神的な事柄が、ホロコーストの原因になったと認識していると思います。確かにそれは重要なことです。しかし、それだけではなく、ヨーロッパの社会的、政治的、経済的な状況が、一般の人々の選択や行動に影響を与えたことも見逃してはなりません。私たちは、同じ状況に置かれたらどのように行動するでしょう。子供たちが、ホロコーストは愚かな人たちがしでかしたことなのだと突き放すことなく、その規模の大きさを理解し、多様で複雑な問題がそこに絡んでいたことを考えることが大切です。

ラビのYechiel Teitelbaum。1942年、ポーランドのコルブショバにあるゲットー内の自分の家の前で、タリットとテフィリンを身に着けて。彼は後に、ジェシュフのゲットーに移送された。二人の孫娘はそこで殺された。

参加者が部屋に入るとき、黄色の紙で作った「ダビデの星」(正三角形を2つ組み合わせた星型)を、袖か胸のところにピン留めします。そして、準備しておいた身分証明書を渡します。これに関してはこの章の最後で説明します。アシスタントは、参加者が身分証明書に「J」の印を押されるまで部屋に入らないよう、入り口で待たせます。子供たちが部屋に入り、座ったら、ホロコーストのことを何か知っているか尋ねます。学校で学んだ子、インターネットの情報で知っている子、映画『シンドラーのリスト』を観たことのある子もいるかもしれません。あなたが話し始める前に、子供たちに質問をして、主体的に参加できるようにします。

Berthe Levy Cahenの身分証明書。よく見ると、右上に「ユダヤ人Juif」という印が押してあるのが見える。1942年、フランスのリヨンの警察で発行されたもの。

まず、反ユダヤ主義とユダヤ人迫害が、歴史上、どのように始まったかを話します。次いで、キリスト教会の初期における反ユダヤ主義、十字軍などについて触れます。「歴史的背景」にある情報を用い、ヒトラーがユダヤ人の神を憎悪したこと、その神は私たちクリスチャンが礼拝している神と同じであること、そして歴史的な反ユダヤ主義のおかげでヒトラーが権力を掌握し、あと少しで世界を征服しそうだったことを話します。その後、ヒトラーの権力が大きくなった背後に、どのような社会・経済的状況があったのか、話し合います。

さらに、市民権(日本では国籍)について生徒に尋ねます。市民権を持つとは、どういう意味なのか。それは重要なのか。市民権を持っていると、どんな利点があるのか。もしある日、突然政府が、あなたの市民権はもうありませんと言ったら、どう感じるか。そう言われた人たちは、その地の法律では保護されなくなってしまうのです。警察も守ってくれません。医者は診療してくれないし、火事で消防署に連絡しても来てくれません。法の保護から外れた人たちを迫害し、抑圧し、差別しても、違反にはならないのです。
ドイツ政府が、ユダヤ人の市民権をはく奪したというのは、こういうことなのだと、説明します。

生徒からは、誰にも言わなければユダヤ人だとわからないのではないか、という質問がよく出ます。そのときは、自分が付けている黄色の星と、身分証明書に押された「J」の印を思い出させます。身分証明書を持たずに捕まった人は殺されることになっており、「民族的な」出自を明らかにしなければ、身分証明書を発行してもらえなかったのです。黄色の星を付けないで見つかるユダヤ人や、さらには付け方が正しくないユダヤ人さえも、殺されることになっていました。

子供向けのプロパガンダ。ドイツの反ユダヤ主義の子供向け絵本『毒キノコ』Der Giftpilzから。「金はユダヤ人の神。金を稼ぐためなら極悪な犯罪にも手を染める。ユダヤ人は大きな金袋に腰を下ろすまで休むことはなく、金の王者となることを目指すのだ」。

このユニットの最後にある年表を用いて、ドイツ政府がユダヤ人に、特に子供たちに課した制限について説明します。ナチスの宣伝作戦で最もひどいものの一つは、ドイツの子供たちにユダヤ人の子供を憎悪させることでした。
私たちの社会にある民族問題についても、生徒に質問します。自分の属する学校やグループに、人種・民族差別がありますか。宗教や肌の色の違いで、のけ者にしたり嫌ったりしますか。クリスチャンは、こうした人種差別や偏狭な考え方を根絶するために、どんなことができますか。

『毒キノコ』Der Giftpilzから。「ユダヤ人の鼻は先が曲がっていて、数字の6みたいだ」。

最後に参加者たちに、このようなことが再び起こると思うかと尋ね、話し合います。そして、それが起こらないためには、歴史を理解すること、他の人の品位を下げるような言動は絶対に避けることだと、教え込みます。肌の色、顔や鼻や目や髪の毛の特徴をからかうジョークは、どんなにささいなものであっても、禁止です。
生徒が部屋を出るとき、自分が手にしている身分証明書に記載されている子供たちがその後どうなったか、表でチェックさせます。これに関しても、このユニットの最後にある指示を参照してください。