ステーション22 イスラエルを発掘しよう

ステーション22 イスラエルを発掘しよう

教えるための情報

トムソン・チェーン・レファレンス・バイブル(Thompson Chain Reference Bible)には、考古学情報のページがあり、こんな言葉で始まっています。「神は、人を特別に扱い、啓示を与えてくださったが、その歴史的記録が2つ、私たちに残されている。1つは聖書であり、羊皮紙に書かれ、多大なる努力を通して人の手に渡された。もう1つは、遺跡から発掘された文書であり、聖書が誕生した土地の奇妙な言語で書かれている」。

考古学者は、古代の廃墟を掘り起こし、発見された遺物や言語を研究して、その情報を私たちに提供してくれます。その努力によって、聖書の記録を裏付ける幾千もの証拠が日の目を見、聖書中の人物がどんな文化の中で、どんな日常生活を送っていたか、考察できるようになりました。エジプトからイラクに至るまで文字どおり何百もの遺跡を発見され、しかもこの地域の気候と土壌は、遺物を保存するのに完璧だったので、古代のことがよく理解できるようになったのです。

考古学者は、神秘と宝探しのわくわくする冒険の生活を送っていると思われがちですが、現実はその真逆です。目標は宝の発見というよりは、むしろ土埃まみれになっての情報収集です。「考古学」という言葉は、ギリシャ語の「アルカイオス(古代の)」と「ロゴス(知識、理論)」の合成語であり、その仕事をよく表しています。つまり、古代の人々が残したものを調査し、どのように生活していたか、その秘密を発見するために、科学の技能を用いるのです。

言語や碑文の研究は考古学の専門分野ではありませんが、その研究の多くは、考古学的な調査のおかげで進展しました。文字や記号の記録が発見されると、碑文の研究、古文書学、貨幣学など、他分野の研究者が引き継ぎます。その中で、聖書研究の観点から見て最も劇的な発見は、ロゼッタ・ストーンとベヒスチューンの碑文です。

ロゼッタ・ストーンは、ナポレオン・ボナパルトに仕えていた機械工が、エジプトのナイル川河口近くで発見しました。1.2m×2.75mくらいの黒い花崗岩の石板に、不思議な文字がたくさん刻まれており、それらはナイル川流域に住む古代の人々が使っていた3つの言語であると判明しました。ひとつはギリシャ語だとすぐ分かりましたが、他の2つは約四半世紀の間、何語か不明でした。しかし1822年、ジャン・シャンポリオンというフランス人が、23年もの飽くなき努力の末、3つの言語の完全訳を発表しました。これが初期エジプト文明の秘密の扉を開けたのです。

ペルシャのザグロス山脈で発見されたベヒスチューン碑文の解読は、学者たちにとって非常に困難なプロジェクトとなりました。ロゼッタ・ストーンと同様、3言語で書かれていましたが、彫刻は浅く、縦横7.6m×15.3mもあり、しかも崖の上110mほどの高さの所にあったからです。イギリスの陸軍将校ヘンリー・ローリンソンは、吊り下げたかごに座って書き写すという骨の折れる作業を行い、全部書き取るのに4年近くかかりました。書き写してから解読するまでには、さらに18年間もかかりました。それは、古代ペルシャの楔形文字、エラム人やバビロニア人の楔形文字、かつてアッシリヤ・ペルシャ・バビロニアに存在したが消えてしまった文明の文字でした。

これら2つの碑文は、聖書に記された重要人物やその時代の文化を理解する上で、新たな扉を開いたのです。

考古学者は発掘する際、様々な道具や技術を用います。手で掘るのは、コツコツと休みなく手を動かし、諦めることなく忍耐することが必要で、時間のかかる骨の折れる仕事です。ガラス工芸品や脆くなった骨の多くが、数百年もの間壊れず保たれてきたのにもかかわらず、発掘者の不注意で粉々になってしまうこともあるのです。考古学者が使う道具のほとんどは、小ぶりの移植ごてや、ヘッドが13~15cmしかない登山用の小さなピックなどです。非常に繊細な作業を必要とし、歯科用の道具を用いることさえあります。固まった泥を緩め、バケツに入れて運ぶときには、大き目のピックや鍬(くわ)などの道具を使うこともあります。その泥を運ぶ時も、工芸品のかけらなどが入っていないか、細心の注意が払われます。

考古学者が用いる最も重要な道具は、ブラシです。最大限に完璧できれいな形で掘り出す必要があります。洋服のブラシ、ちり取り、絵画用のはけなどは、一部分が出て来たものから塵(ちり)や泥を落とすために用いられます。絵筆は、壊れやすい宝物に付着した泥を優しく除くことができます。考古学者はその他様々な専門的な道具を用いて、遺跡を調査したり、測量をしたりします。カメラの役割も重要です。発掘の進み具合や、特別に面白い発見などを、日々、写真に撮って記録するためです。

発掘場所が決まったら、作業開始前に、まずその場所の写真を撮り、地図を準備して、その土地を綿密に調査します。次に、発掘現場全体にグリッド(格子点)を施しておきます。何か発見されたら、その場所をグリッドで正確に特定するためです。グリッドは杭や糸で升目状に記し、それぞれの升目には番号を振って、他の作業員や監督と共有できるようにします。これで、作業員は正確かつ明確な記録を残すことができます。

正確に記録することは、考古学の発掘作業においては、最も重要です。毎朝、それぞれの升目を確認し、それを基準点にして測定し、その日の活動をスケッチや写真で記録します。発見物の種類、破損のレベル、発見された場所の位置と深さ、相互の位置関係を記録するとともに、発掘物は破片に至るまですべて番号を振ります。

考古学者は、データ、図表、写真などを、可能な限り正確に作成整理します。フィールドワークは、考古学者の仕事の始まりでしかありません。ひとつの遺跡が語っているすべてを解明するには、長い年月がかかります。将来いつか、こうした情報が集められ、関連付けられて、考古学的結論が出されることを期待するのです。

学びの進め方

発掘現場に生徒たちを招き入れます。価値のある宝物を気づかずに踏むことのないようにと、注意します。床に生徒を座らせたら、自分はこの発掘現場を担当する考古学者だと紹介します。「教えるための情報」を参照して、発掘現場はどのように準備されるのか、考古学者の仕事や注意すべき点はどんなものか、などを説明します。小さな移植ごて、ピック、絵画用の筆、カメラなどがあれば見せます。そして、生徒たちの周りにある杭とひもは何のためかも話します。

聖書の研究者らにとって、考古学は非常に重要な役割を果たしています。イスラエルや中東地域で、多くの遺跡が次々と発掘され、聖書の記述を実証する情報が明らかになってきました。

ここで生徒に、「イスラエルで、考古学者はどうやって発掘場所を決めると思う?」と質問します。実は、市民が家を建てたり、建設会社が道路を作ったりしたときに、遺跡が発見されることがよくあるのです。その場合、考古学委員会が来て、その遺跡の価値を鑑定調査します。それが終わるまで、建設工事は一旦中止となります。もし価値のある遺跡であれば、現代の建築プロジェクトよりも考古学的調査の方が優先となります。

また、考古学者たちは、テルと呼ばれる丘に関心を持ちました。テルはただの瓦礫(がれき)の山、草ぼうぼうの丘にしか見えませんが、発掘者たちの目には、発掘を待つ歴史の山に見えます。古代中東の沙漠地帯では、水のあるオアシスや井戸の近くに村や町を建てました。ある共同体が、侵略者や自然災害に襲われて破壊されると、そこに新しく住みつく民もまた水源の近くに居を構え、水汲み場を再建します。その際、先住民の廃墟の上に新しい町を築きます。次に、また別の征服者が来て町を破壊し、さらにその上に町を建てます。それが、数世紀にわたって繰り返されました。こうして何層にも積み上がった土地は、やがて土に覆われ、植物に覆われ、歴史のミルフィーユになっているのです。テル・メギドのように、25もの遺跡の層があるというテルもあり、その最下層はダビデ王の時代にまでさかのぼります。聖書時代の人々が残した遺跡を見つけるのは、とてもわくわくする仕事なのです。

では、生徒たちに道具を持たせ、発掘を始めます。人工遺物が発見されたら、はけで注意深く泥を落とし、番号のラベルを貼ります。可能であれば、壊れた陶器の水がめの修復作業をさせるのも面白いです。壊れた陶器はさほど重要に見えないでしょうが、考古学的な資料としてはとても重要です。陶器の破片は、その層やその発掘現場がどれくらい古いのかを特定する最重要な手がかりとなります。破片の大きさ、形、質感、仕上げ方を調べることで、考古学者はその層がどの時代のものかを判別することができるのです。

生徒のひとりにクリップボードを持たせ、生徒たちが発見したものを記録させます。位置を特定する記号の使い方も教えます。記録係を交替させ、発掘物を手に持った生徒の笑顔を写真に収めておきます。

雰囲気づくり

リアルな発掘現場を作るのは簡単です。次の方法のどれかを選んでください。

・大きなビニールのプールを準備し、プールの底と側面を、濃い茶色の防水布で覆います。防水布の余った部分はプールの外に出し、プールの下にたくしこみます。そして、プールいっぱいに砂を入れます。古代風に見えるおもちゃのコイン、陶器の破片、洗って一度焼いた鶏の骨などを、砂の中に隠しておきます。古めかしいボタン、金属の水差しや壺、色のついたガラスに見えるようなプラスチックのビーズなども、あれば入れておいてください。

・発掘現場にする砂場の大きさ決め、厚さ5cm、幅25cmの板を4枚、長さは砂場のサイズに合わせて準備します。次に、砂場よりも1mくらい大きいサイズの濃い茶色の防水布を、床に広げます。最初の板を一辺に置き、防水布で何回か巻いて、板の部分が隠れるようにします。そして、板の一番細い面が下に来るように、板を立てます。最初の一辺が終わったら、向かい側のもう一辺も、同じようにします。残りの二辺も同様にします。これで、場所の大きさにぴったりの砂場の完成です。板がもしぐらぐらするのであれば、角に1本ずつ釘を打ちます。砂を入れて、前述したような手順で発掘現場を準備しましょう。

砂場ができたら、杭とひもを使っていくつかの区画に区切ります。カードに番号を入れ、それを各区画に貼ります。砂場のへりの外側から発掘させてもかまいません。スペースが広ければ、別の発掘現場を用意してもいいでしょう。小さなプラスチックのバケツに砂を入れ、それぞれに杭を立て、杭と杭をひもで結び、区画を作ります。

次に、壊れた陶器の修復作業をするスペースを準備します。100均ショップや園芸用品店などで、素焼きの植木鉢を買ってきて、明るい色のマーカーで、幾何学模様や花の模様を描きます。描き終えたらタオルで巻き、ハンマーで壊して、大きな破片を選び、鋭い角がなくなるまでサンドペーパーで擦ります。その破片は砂場に隠し、残りの破片はトレイに載せ、修復作業の場所に置きます。修復作業用の様々なサイズと形の絵筆も準備します。安価なメイク用ブラシも、用意できれば用意します。アシスタントは、生徒の修復作業を手伝います。

作業現場には、陶器の壺、鉢植えの植物、「教えるための情報」で紹介した多くの道具を置いて、雰囲気を出します。また、日よけを作るのも面白いです。バケツ4つに砂をいっぱいに入れ、適切な高さの材木をそれぞれの箱に差し込み、黒いシートや暗い色の布をポールの上にかければ、屋根となります。布は適度な長さに切り、それぞれのポールの上にホチキスで止めます。発掘に使う水彩絵筆、クリップボードや鉛筆、小さな貼り付けラベルを準備して、生徒たちが発掘物をラベリングできるようにします。

衣装

カーキ色のズボンにTシャツかポロシャツが最適です。つば付き帽子とハイキングシューズを身に着けます。