創造主が万物の基準 vs 人間が万物の基準㉒

創造主が万物の基準 vs 人間が万物の基準㉒

Ⅱ 人間が万物の基準である(19)

 5.ヨーロッパ近代と啓蒙主義

6)人間至上主義と「超人類」への進化

さて、人間は創造主なる神を否定し、人間を万物の基準とする「人間至上主義」の文明を作り上げ、さらなる自己実現を目指してどこへ行きつこうとするのでしょうか。おそらく、ホモ・サピエンス(現人類)としての能力の限界を超克しようとするのだろうと思われます。つまり、新しい種「超人類」への進化です。

そんなことを唱えているのが、世界的なベストセラー『サピエンス全史』『ホモ・デウス』で有名になったユヴァル・ノア・ハラリです。彼は、人間至上主義が極限に達し、やがて進化した「超人類」が人間自身を置き去りしていく時代がくると予測します。

 

①人間至上主義という新宗教

ハラリは、人間至上主義を新宗教と呼びます。つまり人間自身を神々とする宗教です。それを新宗教と呼ぶのは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム、そしてヒンドゥー教、仏教など、超自然的な神や神秘的な力を信じる、従来の宗教に代わって登場したからです。

確かに、「創造主が万物の基準である」とするのが宗教なら、「人間が万物の基準である」とする「人間至上主義」は新宗教と言えるでしょう。しかし、ハラリに言われずとも、聖書は「人間至上主義の時代」の到来を最初から予告していました。「善悪の木の実」を食べれば人間は神のようになれる、と誘惑したサタンの宗教です。これまで述べてきたように、「空の空」に行き着く宗教です。

 

ハラリは次のように説明します。

人類(ホモ・サピエンス)は、フィクション(虚構)を描き、みんなでそれを共有した。そのフィクションによって結束することで大きな力を発揮した。そうして、個々の力は強いが協力し合うことができないネアンデルタール人を淘汰することができた。

さらに人類は、1万2000年前、農業革命によって動植物を支配し、黙らせ、従わせた。植物を栽培し、動物は家畜化した。そして、宗教、帝国、貨幣という3つのフィクションを生み出し、それによって文明を築き上げた。人間自身が考案した「神」「王」「カネ」への信頼と服従が、人類社会の枠組みを形成していった。人間に生きる意味や目的や倫理を与えていたのは「神」であった。

しかし、17世紀の科学革命がその「神」を黙らせた。19世紀の末には「神殺し」を宣言し、宗教というフィクションを解体するようになった。そして科学の力と、人間至上主義という新宗教が一つになって、「神」を排除した現代世界の枠組みを形成していった。人間至上主義は、西欧社会においては民主主義、自由主義、資本主義として結実し、他の地域では、共産主義、唯物主義、独裁主義として現れている。

新宗教は人間性を崇拝する。その人間性が、キリスト教、イスラム、仏教などの世界宗教の「神」や「自然の摂理」と同じ役割を果たす。人間性が土台となって、価値や道徳の基準が作られるのである。それゆえ、新宗教の「最も重要な戒律」は、人間自身が「意味のない世界のために意味を生み出せ」「宇宙、世界、人間自身に意味や目的を与えよ」となる。つまり、新たなフィクションの創作である。

むろん神が存在しなくては生きていけない人たちもいよう。そういう無知な者たちのために、必要悪として神々の居場所を用意してやってもよい。ただし、もはや旧宗教の神々が復活する余地はない。そうした宗教の復興のように見える現象が散発的に発生しても、神の死体の始末にてこずっているだけのことである。